第14章 単身赴任、残る。
引越し先の家に荷物が届く。
それらを並べていけばがらんと殺風景な部屋に色が入った。
「じゃあ私、ご近所に挨拶してくるね?」
「俺、行かなくて大丈夫か?」
「ゆずは寝てるうちに行ってきちゃうからゆっくりしてて?ついでにご近所巡りして夕飯買ってくるよ。」
財布とスマホが入ったかばんと小さな紙袋を数個持つと、私は新しい扉をくぐった。
ご近所に挨拶をしたあと、私はある場所へ向かう。
新居からまっすぐ大通りに向かって歩く。
横断歩道を渡り、細道に入る。
見覚えのあるスーパーの横を通り、近くのマンションに足を踏み入れた。
8階の18号室。
目の前でスマホを鳴らせば、扉が開いた。
「おかえりなさい、椎名…
いや、文乃さん。」
「ただいま、灰羽くん。」
唇に塗ったルージュが解けた。
秘密の恋が
再び
始まる。
私たちの恋は
ひみつ。