第2章 罪悪感
「ただいま。」
明かりの灯った家に入れば、ぱたぱたとスリッパの音。
「おかえり。文乃が遅いなんて珍しいなー?」
「急に取引先と会食が入っちゃって…
連絡できなくてごめんね?」
「しょーがねーべ。…ってことは飯食ってきちゃったかー。」
「ううん?おじさんたちのお酌ばっかりでほとんど何も食べてないからお腹すいちゃった。
この匂い…シチューだ!」
ヒールを玄関で脱ぐと相手はにかりと笑ってつけていたエプロンを外した。
「正解。今ちょうど出来上がったから食うべ?」
「仕事で疲れてるのにごめんね?
孝支。」
私が謝ると孝支は笑いながら私の頭をくしゃりと撫でた。
「ほーら!冷めるからさっさと食うべ?」
「うん。じゃあ急いで着替えてくるね?」
キッチンへ向かう孝支の背中を見送り、部屋に向かう。
部屋に入ると、ほっと胸をなでおろした。
私はちゃんと笑えていたのだろうか。
受け答えで変なところはなかっただろうか。
孝支の笑顔に感じる罪悪感。
でも、先ほどの行為を思い出すだけで身体が熱くなる。
「もう、おしまい。」
灰羽くんは後輩。
私には孝支がいる。
これ以上孝支を裏切りたくない。
裏切っちゃ…いけないんだ。
「文乃?」
「っ!今いく!」
私は気持ちを切り替えると急いで部屋着に着替える。
深く、深く深呼吸をすると、孝支が待つダイニングへと足を進めた。