第1章 はじまり
行為の後、別々にシャワーを浴び服を着替える。
その間は私も灰羽くんもずっと無言。
そんな静かな空間を打ち破ったのは、灰羽くんだった。
「なんで、俺じゃダメなんですか?」
あとはジャケットを着るだけの状態で後ろから抱きしめられる。
「年下は頼りないですか。」
ごめんなさい。
「違うわ。」
卑怯でごめんなさい。
私は灰羽くんの腕を解くと自らの鞄から財布を取り出す。
すきよ。
私も、貴方と話をするたびに
貴方の笑顔を見るたびに貴方をすきになっていった。
中から取り出したのは免許証。
でもね、だめなの。
それを灰羽くんに見せると、灰羽くんの表情が固まった。
「椎名は旧姓。
私、結婚してるの。」
私、既婚者なの。
だから、貴方をすきになってはいけないの。