第20章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜
各国の精鋭たちが力を合わせたことで、普通では考えられない速さで情報が集まり、
其れ等の情報をもとに、この後どう動くかを確認するため、一同が広間に集った。
「やはり2人があの崖を転がり落ちたのは、ほぼ間違いないな。」
信長が口火を切ると
「そうだとすれば…狼煙の位置からして、かなりの落下でしょうね。怪我とかしてなきゃいいけど。」
家康がそれに応え
「秀吉のことだ。あたりの地図は頭に入っているだろうし、あの位置からであれば西の山道を目指して進むに違いない。」
光秀は当然のように、そう予側した。
「何故そう言い切れる?」
謙信が、色違いの瞳をギラリと光らせ問い詰めるように言うと
「美蘭がいるからだ。」
政宗もまた、瞳をギラリ光らせて応えた。
「…!」
「遠回りしてでも天女を守れる確実な道を行く筈…という事か。」
信玄の言葉が、秀吉の人柄を浮き彫りにした。
「秀吉さんがご一緒なら安心ですね。」
佐助の言葉は、
謙信にとって、何の励ましにもならなかった。
敵ながら、頼り甲斐のある人間が美蘭と共にいるとすれば安心ではあるのだが。
秀吉の美蘭への恋情に気づいている謙信としては、秀吉が出来た人間であると実感すればするほど、心が乱された。
その緊迫した場へ、
光秀の斥候が飛び込んで来て、
光秀に耳打ちをした。
その様子を見た謙信は、
「何だ!何がわかったのだ?!」
我慢できずに急き立てる。
だが光秀は、威圧感溢れる謙信を無視し、自分の主人である信長に身体を向け、報告した。
「やはり我々の読みに相違ないかと。この離れからも狼煙を上げさせたところ、最初の狼煙より西側の位置から、狼煙が返されたようです。」
それを聞いたら信長は、ニヤリと笑みを浮かべた。
「こちらが事態を把握したことを理解して、己らの無事と現在の位置を伝えて来よったか。」
「美蘭1人じゃ、そんな気が利いたこと出来る訳ないんだから。2人が一緒なのも間違いないね。」
「ああ、間違いねェな。」
家康と政宗が、安心したようにそう呟き合った。
そして
「さすが秀吉様でございますね!」
三成の主人への素直な賛辞は、
またも謙信の胸を掻き乱した。