第18章 甘夏の謌【幸村】
今日は幸村が帰ってくる日。
思いが通じ合った直後、謙信に謀反(むほん)を起こした大名を懲らしめる遠征の手助けを頼まれた信玄に付き添い、当然のごとく幸村も出かけて行った。
諦めの悪い大名が近隣諸国を逃げ回ったため、思ったよりも長く掛かった遠征。
ようやく今日戻って来るとの便りが、春日城に届いた。
出陣が春日城から始まったため、当然戻ってくるのも春日城。
美蘭は、幸村に春日城で待つように言われ身を寄せていた。
(…7日振りに幸村に会える♡)
針子部屋で、手元を動かしながら久々に会える恋人のことを想うと、思わず顔が緩んだ。
そんな様子の美蘭に、針子仲間が口々に言った。
「美蘭様、やっと体調が戻られて良かったですね。」
「ずっと寝込まれていたから心配していたのですよ?」
「幸村様が戻られる日に回復されていて、良かったですね。」
幸村達が出陣した翌日、月のものがやってきた美蘭。
上杉・武田軍が織田軍と協力して顕如の軍を討伐に行った、あの戦が終了してから間もないこともあり、
鍛えてもいない身体でその戦に帯同して回った美蘭は疲労困憊しており、毎月の貧血をきっかけに寝込んでしまっていたのだった。
「帰って来られて美蘭様が寝込んでいらしたら、幸村様がびっくりされてしまいますものね?」
幸村と恋仲になったことは、春日城で知らぬ者はいないほど広まっており、当然知っている針子仲間たちは、遠慮がちではあるが冷やかした。
(本当に、起き上がれるようになって良かった…。)
月のものも、今日か明日には終わりそうである。
愛しい幸村が、
大切な人たちが、
命をかけて出陣している間、床にふせっていただけでも申し訳ないというのに、
更に余計な心配などかけたくなかった美蘭は、安堵のため息をついた。
(早く…みんなに…会いたいな。)
美蘭は、
じれったい程に待ち遠しい気持ちを必死に抑え込み、なんとか手元の針を進めたのだったが、
ドキドキと脈打つ胸は息苦しく感じた。
(幸村…みなさん…早く元気な姿を見せてください…。)