第11章 恋知りの謌【謙信】湯治編〜露天風呂 後編〜
美蘭は、
今すぐ自分こそこの場から駆け出して行きたいと思ったが、一糸まとわぬこんな格好ではそれすらも叶わない。
岩陰の湯の中で、膝を抱え、息を殺しながら
(…謙信、、様…っ…)
心が折れてしまいそうだった。
近づいたと思うと
離れて行く気がする。
わかったと思うと
全く理解のできない事態が訪れる。
その度に胸がキリキリと張り裂けそうになり
その度に思い知らされることがある。
(…謙信様が…好き…。離れて行かないで…っ…。)
温泉の湯で何度も顔をすすぎ、湯なのか涙なのか…わからない水滴で顔を濡らしながら、信玄、幸村、佐助の3人が戸を開閉して出て行った様子に気づいた。
もう少しして、誰もいなくなったら、出て行こう。
(湯あたりかな…頭が…ぼうっとする…。)
だが、こんな格好…裸で鉢合わせなど、したくない。
美蘭は、身体の熱さに、黙ってひたすら耐えた。
「……露天風呂ですか?」
「こんな時に何をおふざけになられているのです?」
三成がキョトンとする隣で、苦虫を噛み潰したような秀吉。
「ふざけてなどおらん。美蘭に、幸せかどうか直接聞きくためここに来たのだ。光秀の斥候によると彼奴はここにいる。」
信長は、余裕の笑みで答えた。
安土の武将たちは、信長に連れてこられた場所が温泉だとわかり、面喰らっていた。
「光秀さん、湯治場にまで斥候放ってたわけ?」
「混浴とはそそられるぜ。」
家康、政宗が好きなことを言っていると
「聞くまでもなく、何やら雲行きが怪しいらしいぞ。」
光秀が追いついて来た。
「他の斥候によると、上杉が、大名の娘と先にこの温泉から出て行ったらしい。美蘭は今、中にいるはずだ。」
「光秀様!いつもながらこっそり調べ回るのがお上手ですね!」
「まあな。」
「それ褒め言葉じゃないでしょ。三成。」
「そうか?諜報には、それ以上ない賛辞に聞こえたが。」
「それよりもあいつら…露天風呂で愛憎劇か?」
「けしからんな。」
「まあ美蘭の話を聞けば良い。」
そう言うと信長は、
くだらない言い合いをしている武将たちを気にせず、脱衣所に入って行った。
「…!お待ち下さい!」
その後に、
武将たちも続いた。