第6章 囚われの謌【光秀】甘切ルート
全てが
心すらも奪われてしまいそうな
乱暴なのに
優しい
甘い
甘い光秀の口付け。
美蘭は、目眩がした。
刹那
惜しむように、光秀の唇が離れていった。
「……っ…?」
まだ上がる息が上下させる美蘭の胸元。
抵抗した美蘭の身体はかなりずり落ちて、光秀を真下から見上げるような大勢になっていたが、まだ手足は拘束されたまま。
見下ろす光秀の褐色の瞳の瞳が
切なく、揺れる。
「………。」
美蘭は、
何故か、強く光秀を拒めずにいた。
暫く見つめ合った2人。
心臓が早鐘を打ち鳴らすまま流れた静寂は永遠のようだった。
「これで…身体は温まったろう?」
だが、その一言に静寂は破られ、スルリと手足も開放された。
「温まり過ぎて辛いなら可愛がってやるが?」
そう言う光秀の顔は、いつもの意地悪な顔だった。
「…!!…け…結構ですっ…!」
美蘭は、飛び起きて光秀から離れると、乱れた着物や髪を整えながら、怒って言った。
いまにも泣きそうに見えた光秀の表情(かお)。
揺れる瞳が悲しそうで
拒絶したら壊れてしまいそうに見えた。
(……気のせい…かな?)
「……来たか。」
起き上がり口を手の甲で拭いながら言う光秀に、先ほどの熱い口付けが思い出させられ、ドクリと胸が高鳴った美蘭。
だが
それ以上に、胸を高鳴らせる音が遠くから聞こえてきた。
「美蘭!!!」
近づいてくる何頭もの馬の蹄の音。
その中に響くのは
「…信長様っ!」
愛しい人が、必死に自分を探す声。
美蘭は裸足で土間に出て、小窓に張り付いて叫んだ。
「信長様!」
見張りの侍たちと他の武将たちのやり合う声や、キン!という刀が交わる音があちこちで聞こえる中、
信長の馬だけは、
迷わず小屋へ向かい走ってきた。
「そこにいるのか?!」
小屋の前まで来ると、
そう言いながらひらりと馬を降りた信長。
「ここに居ます!」
美蘭は必死に応えた。
小窓に向かい
…信長に向かい必死に叫ぶ美蘭の背中に、
求めあう2人の声に、
光秀の胸はギュッと締め付けられた。