第4章 恋知りの謳【謙信】
翌朝。
心地よい気だるさの中で目覚めた謙信。
腕の中で生まれたままの姿で安らかな寝息を立てて眠る美蘭を見つめ、その愛しさに目を細めた。
美蘭はもう、
何処かの人質ではない。
織田家ゆかりの姫でも、ない。
(佐助が俺に何年も黙っていたのは…後で懲らしめが必要だが。)
500年後の世から来たというのには少々驚いたが、予想を裏切る発想ばかりする美蘭に、何処か納得する部分もあるし、大した問題ではない。
謙信と幸村は、表向き、同盟を解除したのだから、もう春日山には帰って来ない。
もう春日山にいる理由がない…などと信玄は言っていたが、謙信が美蘭を織田軍から連れ戻す際、あらぬ誤解を受けぬように、との配慮であることは、謙信にとって明らかだった。
謙信と信玄の密約故、幸村には青天の霹靂であったろう。
(彼奴らにも…近いうち内密に礼をせねばならぬな。)
義理堅い謙信は、そう思った。
「…謙信様…。」
謙信は、無意識に愛しさから美蘭の髪を撫でていた。
「…起こしたか。」
「おはようございま…っつ…!」
フニャリと笑顔を浮かべた美蘭だったが、身体を動かそうとすると、急に顔を歪めた。
繰り返し謙信に求め続けられ、それに応えた美蘭の身体の節々が、悲鳴を上げたのだ。
「昨夜は無理をさせた。そのままで良い。」
「…っ。…はい…ありがとうございます…。」
昨日あれだけ全てを晒して求め合ったというのに、自分のひとことに赤面する美蘭に、謙信の心と身体は甘く疼いた。
(流石にこれ以上は美蘭を壊してしまうか。)
また美蘭を求めたくなった気持ちを、謙信は律した。
(未来永劫、一緒なのだ。)
美蘭と交わした約束を思い出し、欲望を抑えた。
だが
「…愛している。」
口付けなら何度繰り返しても構うまい…と、謙信は、目の前の可愛らしい唇を塞いだ。
あたたかな体温に
甘い香りに
謙信は目眩がした。
本当の恋を知り、
本当の幸せを手に入れたのだ。
完