第28章 捕らわれた未来(1)
俺はひまりにある事を伝える為、針子部屋に向かって歩き出す。織田家の姫君になったとはいえ、ひまりは相変わらず針子仲間と一緒に、他愛のない話をしながら仕立ての仕事をしていた。
「……ひまり、居る?」
「い、家康様!!」
突然部屋に入ってきた俺に、針子達が慌てて頭を下げる。その中にひまりの姿がない事を確認すると、ふと部屋の隅で机の上に頭を預けている、小さな背中を見つけて……
(……また、寝てる)
俺は起こさないように、スヤスヤ寝息を立て眠るひまりに近づく。
「ひまり様、昨晩どうやら徹夜で仕立てをしていたようで……つい先程、眠ってしまわれて」
「大切な方へ羽織を贈りたいからって、仰ってました」
針子の言葉にもう一度ひまりを見ると、膝の上に置かれた一枚の羽織が目に入る。
(……っとに、何処まで俺を虜にしたら気が済むんだろう)
俺は、ひまりの膝に置かれた辛子色の羽織を机の上に置いて、その場にしゃがみ込む。
「……んっ」
身じろぐひまりの身体をそっと倒し、起こさないように横抱きにして、立ち上がると出口へと向かう。
「……風邪引くといけないから、部屋に連れていく」
「あっ、はい!よろしくお願いします」
その声に少しだけ反応して、俺の腕の中で動くひまり。
「…い、えや…す……」
目を閉じたまま、俺の名前を呼び
「……ワ…サビが…りん…ご…すぅ……」
訳の分からない寝言を言いながら、またスヤスヤと寝息を立てる。
(……本当に)
「困った、お姫様だ……」
その可愛さに、思わず笑みが零れる。
「『(っ//////)』」
その場に居た針子達が、家康の笑顔の虜になったのは……また別のお話。
「捕らわれた未来」
ここから……
はじまる……。