第26章 飴細工 前編
「そういえば、家康……何にも食べてなかったね」
ちゃっかりうさぎの飴を一人で食べてしまった私は、今更ながら食べたいものなかったの?と聞くと家康はしばらく黙り込んだ後、少しだけ困ったような顔をして答える。
「……あるけど。食べだしたらきっと止まらないから我慢した」
「えっ!我慢してたのっ!?……ごめんねっ、全然気がつかなくて……」
私がはしゃいであちこち連れ回してたから、きっと言いにくかったんだと思い、申し訳ない気持ちが込み上がる。
「私のために、我慢なんてしなくて良いのに……」
俯きながら私が小さい声そう言うと、家康は突然歩いていた足をピタリと止め、近くにあった木に私の身体を預けるように押し付けた。
「わっ!!」
「……なら、一口だけ貰う」
(えっ……)
何かを考える前だった。
やわらかい感触に唇を塞がれたのは。
「……ほら、やっぱり……止まんなくなった」
責任とってくれる?
目の前で妖しい笑みを浮かべる、家康。私は次々と降り注ぐ口づけの嵐を受け止める。ひと気がないとは場所とはいっても少し遠くから賑やかな声が聞こえ、近くからは川のせせらぎが耳に届く。
「んっ……誰かきたら……」
「まだ食べ足りない」
どんどん加速する熱。
私は眩暈を起こしそうだった。