第93章 あなたにもう一度(9)
さらさらと心地よい川の流れを聞きながら、時折揺れる身体を手で支えた。
赤く染まった夕日が見やすいように、私は頭に被っていた笠を取り、冷えてきた体温を少しでも温めようと手をこすり合わせる。
(春にお城の近くの舟に乗った時は、凄く楽しかったのに……やっぱり一人だと寂しい、な)
視界に映ったのは葉が一枚もない木々。それが流れてゆくように次々と移りゆく。その様子を見続けていると、ふとあの時、四人で見た満開の桜の木を思い出した。
ーー家康!見て、見て!すっごい綺麗だよ!
ーー父上!!あそこに桜の木が!
ーーち、ちうえっ!
ーー……別に三人で引っ張らなくても、ちゃんと見えてるし……って!ひまり!そんなに乗り出したら、落っこちる!
(……ふふっ。今思えば私が一番、家康を困らせていたかもしれない)
やっと私から笑顔が戻りそうになった時。
「もう、着きますぜ!」
川舟を櫂で漕ぎながら、舟頭さんはそう言って少し離れた所にある湖を指差した。