第85章 あなたにもう一度(1)※R18
俺は集まった老中や重臣達の話を聞き、
思わず額を手で押さえる。
いつかこんな日が来るのは、自分が一番理解していた。しかしひまりの事を考えると中々決断するのは難しく、暫くは触れずにいたが……。
(流石にこれ以上は、限界か……)
「本来なら生後、間もない時から乳母が必要でした。しかし、奥方様たっての希望によりそれは目を瞑りましたが……」
「学問や武術は守役、小姓で出来ます。しかし……」
「このまま側室も迎えないおつもりなら、せめて教育係はつけて下さらねば」
大事な跡取り様を、立派に育てあげる必要があります。
声を揃えるようにそう言われ、俺は重い腰をあげる。
「……解った。取り敢えずその志願者に会ってから判断する」
俺はそれだけ言い残し、その場を後にした。
部屋に戻る。すると座ったままの体勢で子供達の褥の横で寝息を立て、コクリと首を傾けるひまり。それを見て、俺はそっと肩を引き寄せる。
「う……ん………」
「こんな所で寝てたら、風邪ひくよ」
「んっ……もう会合おわっ……たの?」
ひまりは寝起きのトロンとした表情で、俺を見る。
(……あの頃と変わらないな)
母親になった今も、ひまりはまだ少女かと錯覚するぐらい愛らしい姿を覗かせる。見た目も十代と言われれば、違和感がないぐらい若々しい。
そうかと思えば、頬にかかる髪を耳にかける仕草、着物の裾や襟元を直す仕草、薄っすら開いた口から溢れる吐息が、それが一瞬で大人の女へと変貌する。
(……どんどん綺麗になってく)
俺は甘い香りの髪を一房手に取り、口付ける。
「……い、えやす?」
そう呼ばれるだけで、俺は一瞬で欲情してしまう。
「ほら、掴まって」
ひまりに軽く口付けをし、横抱きにして自分達の寝室に運ぶ。
(後で、ちゃんと話さないと……な)