第83章 〜天邪鬼な感情〜家康様視点
「痛っ!……」
「……ご、ごめんなさいっ!!」
ひまりは俺の腕の中で更に自分の腕の中に子猫を抱き、何度も頭を下げ謝る。
「……謝るぐらいなら、最初っから登らなかったらいいだろっ!あんな所から落ちたらかすり傷だけでは、済まな……」
思わず大声を上げると、ひまりの瞳が微かに揺れるのが解り、言葉を途中で止める。
(結局、泣くんだ……)
これだから女は面倒臭い。
そう、思った時。
「……っ、く……良かった……家康さんやっと話してくれた」
「………は?」
ひまりの理解できない発言に、間抜けな声が出る。
「最近、ずっとっ……っ避けらてたから……もう、一生口聞いて貰えないのかと思って……」
ひまりはホッとしたように、瞳からポロポロと涙を溢れさせ抱いていた子猫をそっと地面に降ろす。
「……あんた、今、怒られてる自覚ある?」
「そ、それぐらいっ……ちゃん、と解ってます!」
ただ叱ってくれるのは、
心配してくれたからですよね?
頬を涙で濡らしながら少しだけ微笑んだ後、俺を真っ直ぐ見つめるひまり。
潤んだ瞳から俺の視線は離せなくなる。
(っ……!)
俺の中でまだ名前も解らないような感情が、早まる鼓動と一緒に姿を見えはじめ……。
「……どうでも良いけど、早く退いて。……重い」
「あっ、……ご、ごめんなさいっ」
俺の口から溢れる天邪鬼な感情。
小柄なひまりが重いはずがない。
本当はもっと……。
(俺は一体、何を考えて………)
俺は頭を軽く振り立ち上がると、着物についた砂をはたき落とす。その様子をじっと見ていたひまりに、一瞬だけ悩んだあと……手を差し出す。
「えっ……」
「……部屋に行くよ。あんたには一度きつく注意しておく必要があるから」
ひまりはキョトンとした表情を浮かべ俺の手をじっと見てめた後、恐る恐る自分の手を乗せた。
「助けて頂いて、本当にありがとうございました!」
「……俺が助けたのは、あんたじゃなくて猫の方」
だから、礼なんていらない。
俺はまだ、当分は素直になれそうにない。
〜天邪鬼な感情〜(完)