第83章 〜天邪鬼な感情〜家康様視点
あんた、いい加減気づいてくれない?
その行動が俺には迷惑でしかなくて、どれほど心をかき乱しているか……こんな感情は、俺には必要ないから。
だから、そんな顔……
俺に見せないで。
庭で駆け回るワサビを横目に書物を読んでいると、慌てた様子で女中頭が廊下を走り、俺の姿を見つけその場に膝まづいた。
その様子に嫌な予感がして片方の眉を下げ、用を尋ねると……。
「……た、大変でございます!!ひまり様が子猫を助けようと、木に登られてっ!」
「は……!?」
俺は立ち上がり、その場に急いで向かう。
(ったく、少しは預かるこっちの立場も考えれないわけ!)
「ひまり様!危ない事はお止めになって下さい!!」
「もし、お怪我でもされたら大変でございます!!」
庭から少し離れ、普段はあまり誰も踏み入らない裏手に辿り着くと、御殿に住む数少ない女中はその場に集まり、不安げに木に登るひまりを見上げていた。
「……だ、大丈夫です。すぐ降りますので……あと、もう少しで届……く」
木の枝の端で震える白い子猫。
その猫に向かって不安定な細い木の枝に跨り、必死に手を伸ばすひまり。
今にも折れそうな、しなる木の枝を見て俺は草履を履くのも忘れ、急いで木の下へ向かう。
するとひまりの指先が微かに、子猫に触れ……俺があと少しでたどり着く時。
「……にゃぁ」
ミシッ……
「……と、どいたっ!へ……!?」
ミシッミシッ……
「きゃぁぁぁっ!!」
「く、そっ…!」
俺は落ちてくるひまりの下まで走り、手を伸ばし体全体で衝撃を受け止める。
「……っ!!!」
いくら小柄な身体つきのひまりでも、あの高さから落ちてくると重圧で重みが増す。
俺は自分が下敷きになるようにして、抱きとめ地面に座り込んだ。