第81章 〜欲しいのは〜謙信様視点
そして、幸村と共にのうのうと戻って来た佐助は軍隊を引き連れ、戦に向かおうとする俺を見て……
「……まさか、ひまりさんを奪いに行くなんて言わないで下さいよ」
そう言う佐助は相変わらず無表情を浮かべているが、声からは微かに感情が読み取れる。
「……やはり知っていて黙っていたな。言っとくが止めても無駄だ」
「あんさぁ……まだ解んねー?あの二人、こっちが恥ずかしくなるぐらい想い合ってんの?」
奪いに行った所で、一番悲しむのはひまりだぜ?
その言葉に俺はすかさず刀を抜き取り、幸村に向ける。
「……だったら、どうした?俺は、欲しいものは力尽くで奪う。それだけだ」
「……あなたが欲しいのは、彼女の器ではなく心……なのでは?」
佐助は、幸村に向けた剣先を指で挟み俺にじっと視線を向ける。
「…………」
言葉を失ったかのように、何も出てこず口を閉ざす。
「彼女は身も心も、全てを捧げることを家康公に誓い、約束を交わしました」
「………っ、黙れ!!」
「……彼女のお腹には命が宿っています……万が一何かあれば、彼女は謙信様を一生許さないでしょうね」
それでも行きますか?
刃を挟む佐助の指から、微かに赤い血が流れ刀からポタポタと滴る。俺はしばらく黙った後、刀を鞘に仕舞い軍隊に戦は延期だと告げ……
「子が産まれた時は、必ず報告しろ。祝いにワカメでも、贈ってやる」
俺は馬に乗ったまま跳ねを返し、城に戻った。
「……佐助、何でワカメなんだ?」
「渡しそびれたからじゃないか?」
以前、ひまりさんに。
〜欲しいのは〜(完〕