第79章 〜結婚前夜〜信長様視点
俺は脇息に寄りかかりながら、嫁入り道具を真剣に選ぶひまりをじっと見つめる。
代わる代わる商人が広間に現れ、あれこれと商品を売り込もうと見せるが、ひまりは必要最低限の物だけで十分だと言い、首を横に振る。
「……ですが、織田家の姫様ならこちらの華やかな物の方が」
「でも、毎日使う物ですから……」
煌びやかな飾りが付いた物ではなく、ひまりは自分の目利きで物持ちの良さそうな、地味な物を選んでいく。
(家康の嫁には、うってつけだなひまりは……)
家康も物を選ぶ時は、華やかさではなく、使い易さや物の本質を見る。手入れをして、長く使える物をあえて選び見てくれなどはまったく関心が無い。
(その癖、自分の女選びには見てくれも抜かりはなかったがな)
ちょこんと座りながら、人差し指を口元に置きじっと商品を見るひまりの姿は、花のように可憐で儚げで一見は少女のように愛らしい。
しかし華奢な体つきの割に、胸元には大きな膨らみがあり髪を掻き上げる仕草は十分に色香を持っていた。
(外見も中身もあいつには勿体無い女だ)
「う〜ん……家康ならこっちの色味の方が好きかな?」
夜着を手に持ちながら悩む姿を見て、今更ひまりを家康に預けた事を、悔やむ自分が微かに居た。