第77章 約束の地へ〜おまけエピローグ2〜
廊下をもう何往復したか解らない。
時折襖の向こう側で聞こえるひまりの声を聞いては、足を止め。
落ち着かず、またウロウロと足を動かす。
「……家康、気持ちは解るが少しは落ち着いたらどうだ?」
「……頭では落ち着いてるつもりです」
秀吉さんの言葉に俺はそう返すと、
襖をじっと見つめる。
「お二人のどちらに似ても、きっと可愛いらしいでしょうね。もしひまり様似の姫様でしたら……お年頃になりましたら……私が」
三成は、眩しそうに目を細め勝手に何かを想像して顔を赤らめブツブツと独り言を言い出す。
「外見と中身が違ったりしてな?顔が家康で中身は真っ直ぐなひまり。顔がひまりで中身は捻くれ者の家康。クックッ」
「それはそれで、楽しみではないか」
秀吉さんと光秀さんの話を聞いて、一瞬、捻くれたひまりを頭に浮かべてしまった。
(……やばい。案外可愛いかも)
「まぁ何にせよ、初めに赤子を抱くのは俺の役目だな」
「何、勝手に決めてるんですか?一番は父親の俺に決まってます。ってか誰にも抱かせる気ありませんから」
俺はそう言って、ギロリと横目で睨む。
「……家康、いつから俺にそんなでかい口叩けるようになったんだ?」
「お二人共、こんな時に言い合いしても何も始まりません。ひまりさんのことを一番に考えて今は、じっと待つしか……」
目を合わせ火花を散らす俺と信長様に、佐助が間に入り途中で言葉を止め……。
「……ですが、俺達の時代では出産に男性が立ち会いをすることは、割に多い傾向でしたが」
『「へ………?」』
全員が一斉に佐助に視線を注ぐ。
「この時代では、考えられないかと思いますが……来世はご夫婦でご希望される場合も、あるようです」
「……ひまり!今、行くっ!」
「家康様!なりませぬ!!」
襖に手を掛けようとする俺を、再び現れた女中達が止めに入る。
すると奥の部屋から
歓喜の声が上がり……
赤子の鳴き声が微かに聞こえた。
「ひまり様!おめでとうございます!!」
「ご立派な、お世継ぎ様でございますよ!」
俺は襖の戸を、勢い良く開いた。