第75章 約束の地へ 最終章 後編
明日の祝言に備えて早めに休もうと、家康の御殿に向かって歩き出した頃……河原にはもう月が浮かんでいて、ゆらゆらと音を立てながら、揺れていた。
「そう言えば、家康?どうやってあの道標作ったの?」
私はずっと聞こうと思っていた疑問を、やっと口にする。
「どう……って言われても、俺はただ佐助が予測した場所のあちこちの地主に、代々欠かさずこの時季になったら、石碑の近くの田に花を植えてくれ。……としか頼んでないけど」
「えっ!!だって花の名前に私の名前が付いてたよ!?」
「……俺はあの花に、ひまりの名前を付けた覚えはないけど?」
ただの偶然……?
ある町人の家___
「今日の織田家の姫様、本当に綺麗で花みたいだったなぁ」
「なら、徳川様に頼まれた田に植える花の名前を、あの姫様の名前から取るのはどうだ?」
「それは良い!お二人の愛を約束した場所を案内するように植え、代々言い伝えを残そうではないか!!」
こうして言い伝えは時を超え、形を少しずつ変えながら受け継がれていく……。
そして___
「ねぇ、お母さん。このお花、綺麗だねっ!」
「この花畑はね、徳川家康って偉い方が、遠くに行ってしまったお姫様と再び会うために作った、道標なのよ」
そのお姫様は本当に綺麗で優しくて、沢山の方に愛されていたんだって。
だからこの辺りの人は、もしまたそのお姫様が遠くに行ってしまっても……万が一時を超えてしまうぐらい、遥か遠くに行ってしまっても……必ず二人が巡り会えるように代々言い伝えを残し、この花にそのお姫様の名前を付けたのよ。
そう母親は語る。
「そうなんだ!」
「ふふっ……だから、あなたにも徳川家康様みたいな素敵な人に巡り会えるように、この花の名前を付けたのよ?」
ねぇ、ひまり。
歴史は
いつから
何処から変わっていたのか……
それは、
神のみぞ知る。