第68章 約束の地へ 後日談(6)
「……どこ触られたの?」
さっきまでの家康さんが嘘のように、
女の人の頬に優しく触れる。
「どこって……腕をちょっと掴まれただけだよ?」
女の人がそう答えると、家康さんはそっと腕を掴みそこに口付けをした。私は思わずその光景から目を背けるように、後ろを向く。
(やっぱりこの人が家康さんの……)
ズキっと痛む胸。
「い、家康!ここ外だよっ///」
「外だろうが、消毒はすぐしとかないと駄目。…………それより」
家康さんの言葉の語尾が、低い声に変わるのが聞こえた瞬間、突然背中を向けていた私の肩に誰かがしがみ付く。
「えっ!!」
「ちょっとだけ匿って!!」
振り返ると、女の人がうるうるした瞳で私の背中に隠れる。その時、家康さんと目がバッチリ合ってしまい……。
「……あんた」
私がバツが悪そうに笑うと女の人に、もしかして二人知り合いだった?と聞かれ頷く。
「以前に、さっきの男の人に言い寄られてた所を家康さんに助けて頂いて」
「そっかぁ。家康優しいからね!」
女の人はそう言って、微笑む。
「あの時は煩くて俺が迷惑だっただけ……それよりひまり、遅くなる前に帰るよ」
家康さんはそう言って、手のひらをスッと胸の高さぐらいまで上げる。
「…………怒らない?」
「……鈍感なひまりでも、流石に怒られる時は解るんだ」
声は優しいのに、何故か目だけ笑っていない家康さんの顔を見て、うぅ……。と、女の人は涙声を上げながら、しぶしぶ差し出された手を握る。
「……帰ったら、覚悟しなよ」
「……やだっ!……私、悪いことしてないし!」
「へぇ……?今度は開き直るんだ?」
女の人は家康さんの顔を見て、ピクピク頬を引き攣る。そんな二人のやり取りを見て、私は思わず吹き出してしまった。
(何か、少し吹っ切れたかも)
突然肩を震わせながら笑う私に、二人はキョトンとした顔で振り返る。
「すっ、すいません!何か凄くお似合いだなぁ、って思って」
私がそう言うと、二人とも顔を見合わせ笑った。
(全然私じゃ、敵わない)
「ひまりさん!明日お店で待ってますから!」
私が走りながらそう言うと、ひまりさんは短い返事をした後、笑顔で手を振ってくれた。