第10章 はぐれた心の先に…(1)
久々の外の空気に、私は手を空に向かって伸ばすと大きく深呼吸をする。
行き交う人混みに紛れながら、特にあてもなく賑わう城下町を見て回る。
「なるべく早く戻る。それまで、買い物でもしてて」
家康はそう言って、今朝出かける前に看病のお礼にと十分な程のお小遣いをくれた。
(もう、お城に着いている頃だよね)
私は城下町から少しだけ遠くに見える、安土城を見上げる。
普通の生活が出来るぐらいまで、回復した家康は、今は急な信長様の呼び出しで城の中に居る。
(無理してないと良いけど…)
家康の身体にはまだ、治りきらない傷が沢山残ってて…少し心配になる。
本当は着いて行きたかったけど、家康に大人しく待つように、って念を押されて結局言えなかった。
(今更かもしれないけど、こうやってゆっくり一人で町を歩いたのって、初めてかも……)
目の前の光景が、自分の居た世界の500年も昔の光景なんだと思うと、不思議な気持ちになる。
(そう言えば、この時代の人もデートとかしたりするのかな?)
ふと、そんな疑問が頭に浮かぶ。
時々すれ違う、男女二人組。
仲良く肩を横に並べて歩いてて……
ちょっと羨ましくなる。
(手を繋いだり)
(一緒に買い物したり)
(ご飯食べながら笑いあって)
私達の世界では良くある普通の日常。
でもこの乱世の世界では、きっとそれは難しい。
(でも、もし出来るなら……私は…)
一瞬、頭の中に家康の顔が浮かんで…
その場に立ち止まる。
(い、家康がそんな事するわけないのにっ///)
私はあり得ない想像をかき消そうと、頭を横に振った。
「……何さっきから一人で顔赤くして突っ立てんだ?」
「えっ?」
すぐ後ろから声が聞こえ、振り返る。
不審そうに私が眉をひそめると、赤い服を着た男の人は被っていた笠を少し上げ、顔を見せた。
「お前、確かひまりだっけ?」
「あっ!!この前、佐助くんと居た……確か、ゆき…なんとかさん…?」
前に佐助くんが御殿に忍び込んだ時、見張りをしていた人。
名前がはっきり思い出せなくて、私は人差し指をこめかみに当てる。