第64章 約束の地へ 後日談(2)※R18※
「……家康の部屋に入ると、何か凄くホッとするね」
着替えを終え部屋に入って来たひまりはそう言うと、いつも自分が座っていた座布団の上に座る。
「……この御殿に来て間もない頃、この座布団の上で、よく叱られたね?」
ひまりは懐かしそうに目を細め、座布団に触れた。
「……別に叱ったつもりはない。ただ、注意してただけ。……預かってる俺の立場も知らず、すぐ勝手な事するから」
俺がそう言うとひまりは、ごめんなさいと謝りながら、はにかんだ笑顔を見せる。
「多分、その頃から俺は……」
「え………?」
途中まで言いかけた言葉を飲み込み、俺は後ろからそっとひまりを抱き寄せる。
「……家康?」
「……前、向いてて」
振り返ろうとするひまりの耳元に口付けを落としながら、そう囁き……身体に掛けてあった俺の羽織を脱がす。
淡い黄色の夜着だけになったひまりを見て、薄暗い部屋に花が咲いたように明るくなった、気がした。
「……ひまりが目の前に現れた時、一瞬、心臓が止まるかと思った」
天女が舞い降りたかと思うぐらい。
「……綺麗で、自分の目を疑うぐらい眩しかった」
俺は甘い香りに誘われるように、
ひまりの髪に触れる。
「……ずっと会いたくて、ずっとこうして触れたかった……」
離れていた時間が、どれほど自分にとって耐え難いものだったか……ひまりに触れることが出来ない日々が、どれほど俺に苦痛を与えたか……そんな事を言いだしたらキリがない。
ずっと静かに聞いていたひまりは、少しだけ頭を下げると自分の身体に回された俺の腕をギュッと掴む。