第9章 近づく距離〜家康side〜
「側にいさせて欲しい、の」
駄目かな?と、言うひまりに俺は必死に剥き出しになりそうな欲望を誤魔化す。
「……俺が、動けないことをいい事に」
気付いてしまいそうな感情に、自由の効かない身体が蓋をする。
けど、完全に閉じ込める事が出来ない気持ちは
次、そんな事言ったら保証ないから
少しだけ溢れた。
「えっ?……」
俺の言葉に首を傾げるひまり。そんなひまりが可愛くて、俺は顔を正面に向け、真っ直ぐに視線を向ける。
静まりかえった部屋に、
何ともいえない甘ったるい空気が漂う。
「……こ、このままじゃお腹空くから、女中さん呼んでくるね」
落ち着かない様子で、立ち上がろうとするひまりの袖を、無意識に掴む。
「……ひまりでいい」
(……ひまりがいい)
「でもさっきは、嫌だってっ……」
「気が変わった。……早くして」
真っ赤になりながら、慌てるひまりをもっと見たくて俺はわざと急かせる。
「で、でもっ!お粥冷めちゃ…たしっ」
「猫舌だから丁度いい。……それとも、俺を飢えさす気?」
ひまりの顔はみるみる赤くなる。
(今更、意識しても遅いよ)
大体、着替えを手伝うとか言い出して、いきなり人の着物を脱がそうとした仕返しは受けて貰わないと。
恥ずかしがりながら、匙を差し出すひまりをずっと見たくて、俺はわざとゆっくり食べる。
空に浮かんだ月は、深夜を指していた。