第42章 捕らわれた未来(15)※R18※
春日山からだいぶ離れたある山奥。降り出した雨をしのぐため家康は馬を止める。
「私なら、雨降ってても平気だよ?」
少しでも濡れないように被せて貰った羽織。そこから私はひょこっと顔を出し、馬から降りて縄を木に括り付ける家康を見る。
追っ手が来る心配と、早く戻らないといけないと、いう気持ちで焦る私とは違い、家康は落ち着いた態度で大丈夫。と、だけ言うと私を馬から下ろした。
「ここは織田の領土だから、追っ手の心配はいらない」
それにここからなら信長様達に伝達を送ることが出来るから、と説明してくれた。
「織田軍も朝には引き返して、陣営に戻る事になってるから」
「えっ!?」
「俺がひまりを助け出すまでの間、囮になってわざと軍を出してくれてたんだ」
いくらゆっくり進んでも明日の夕刻には春日山に辿り着いてしまう。だから、今日までっていう期限付きだったと重大なことを家康はサラッと話す。
「え……もし間に合ってなかったら?」
「あの人の中にもし、なんて言葉はないからね」
しれっとした口調でそう答える家康。
私は思わず口を開けた。
(信長様ならあり得るかも……)
でも、それだけ家康の事を信用してるって事なのかもしれない。
(信長様も家康も素直じゃないけど……二人の間には凄い絆がきっとある)
ちょっとだけそんな信長様に焼きもちを妬きつつ、私は隣でずぶ濡れになって歩く家康の頭に自分が被っている羽織を乗せる。狭い羽織の中で、見送ったあの時みたいに口付けを交わし、もう絶対に離れないと心に誓う。
春日山を出た瞬間、胸がホッとして馬に乗りながら泣きじゃくる私を……家康はずっと空いた方の手で抱き締めてくれた。
(もう何があっても、離れない)
私達が隠れ宿に入る頃には、嘘みたいに雨が止んでいて綺麗な月が浮かび上がっていた。