第2章 何事もタイミングが肝心
回想
松下村塾にて、
カァ~カァ~
夕暮れ時、橙色の曇り空の中、真っ黒いカラス達が家に帰るように飛んでいる。
少女は正座姿で夕陽を眺めてた。
「ここにいたのですか」
後ろから優しい声がして、振り向くと松陽がいた。
(松陽?)
「夕陽ですか。綺麗ですね」
松陽は少女の隣に静かに腰をかけた。
ずっと黙ってるのもあれだと思い、少女の方から何となく聞いてみることにした。
「松陽先生は今まで生きてきた中で、“後悔”ってあるんですか?」
「どうしてですか?」
松陽先生みたいな超人、失敗って言葉が辞書になさそうだから…
「“後悔”…ですか」
松陽は軽く俯き、少し考えた。
「そうですね。先日、ポテトを買った時、同じ料金でSサイズかMサイズにするか迷ってしまい、Sサイズにしておけばよかったと後悔してます」
「先生私が言ってるのは日常的なものじゃありません もっと別のものです」
予想外の返答に戸惑った。
「フフッ。そういう君はあるんですか?」
“………”
少女の苦い顔に対し、松陽はにっこりと笑った。
「後悔のしない人間なんていません。人はいつでも間違い悔やむ。そんなものです」
“!”
「でも、悔いだけが残るわけじゃありません」
少女の朧げな気持ちとは裏腹に、心地よい風が2人の髪を靡かせた。
“それがたとえ…
取り返しのつかないことでも…?”
少女は今にも消えそうでも綺麗に輝いてる夕陽をぼんやり眺めた。
松陽は微笑みを絶えず、優しく教えた。
「あなたはこの先、数え切れないほどの悔いを重ねるかもしれません。もちろん、君に限らずこの塾の生徒たちも 私も…」
“………”
少女は先生と目を合わせた。
「ですが、自分が決めた道がたとえ始めが暗闇でも、信じて進めば必ず光が照らす。周りの支えが…仲間がいれば、人はまた歩き続けるのです」
“仲間…”
「どんなにつまずいても構わない。何度つまずいて、何度挫けても、君は君の思う道を信じて行けばいい」
夕陽は山の中に消えてしまった。
しかし少女は、胸の内がすっきりしたような心地で安堵していた。
せんせー…私は……