第6章 雪・月・華 ~その白き腕に~
頬を冷たいものが触った。
その感触に目を開けると声が聞こえた。
「智…?」
その声のする方を見遣ると、潤が居た。
懐は五助が居るのか膨らんでいた。
「潤…来てくれたの…」
「ああ…」
潤は泣いているようだった。
なぜ泣いているのか智にはわからない。
手を伸ばそうとするけど、身体に力が入らなかった。
ジジっと燭台から音が聞こえた。
虫が飛び込んだんだろう。
「腫れているから…冷やそうね…?智…」
そういえばさっき頬に衝撃が走ったことを智は思い出した。
あの衝撃がきたら、痛い。
そして腫れるのだと智は知った。
濡れた手ぬぐいを、潤は智の頬に当てている。
殴られて失神するまで苛まれた智の姿に、潤は涙が止まらなかった。
遊びなんかじゃない。
ただの性玩具だ…
こんなに綺麗なのに…
こんなに無垢なのに…
なぜ智がこんな目に遭わなければならない。
いつか…そういつか…
ここから智を連れて逃げよう。
潤の目に力が篭った。
優しく智の頬を撫でると、智は微笑んだ。
その潤の手に、智の白い手が重なった。
微笑んだまま閉じた目のまつげも、銀糸の様に美しかった。
そのまま眠りについた智の唇に、指で触れた。
温かいその唇は、薄紅色…
甘い智の唾液を思いながら潤は目を閉じた。
唇が重なると智の瞼が薄っすらと開き、その赤い瞳に潤を映した。
…嬉しい…潤…
その白い腕を伸ばして、智は潤を包み込んだ。
【雪・月・華~その白き腕に~ END】