第6章 雪・月・華 ~その白き腕に~
翌朝、智が目を覚ますと潤と五助の姿は部屋の中になかった。
布団の横に、能面のような顔をした照が座っている。
高い窓に目を遣ると、白い光が差し込んでいた。
あの光が見えると、照がやってきて…
そして潤は居なくなる。
「智坊っちゃん、身体を清めましょう」
照の声に、智はのろのろと襦袢を脱ぐ。
今日はたらいに湯が満たしてあった。
智を立ち上がらせると手を引いて、たらいに智を座らせた。
蔵から出ることを禁じられた智に照がしてやれる精一杯のことだった。
湯を背中にかけ、全身を手ぬぐいで緩く擦っていく。
智は心地よさそうに目を閉じて、照のされるがままにしている。
照の目に涙が浮かぶ。
この白い少年が不憫でならない。
だが、悪魔とも化け物とも思う。
夜な夜な男を喰らい、惑わせ。
夢中になって破産した男も数知れない。
ここの主人はそれを利用し、どこまでも金を吸い取る。
この少年の色香が、主人を狂わせている。
その色情に…生み出される金に。
そして長男である翔…
自分の子供のように目を掛けている潤までもが惑わされている。
この少年の色香が、この家を狂わせているのを照は感じていた。
「…照…?」
止まっていた手がビクリと震えた。
「なんでもないですよ…」
また手を動かし智を洗い清めていく。
「明日は…髪を水で梳きましょうね…」
「うん…暖かいからちょうどいいね…」
智の小さな小さな世界。
湯に浸かること、髪を水で洗うこと…
楽しみは限られていた。