第1章 ー雪ー
「いいか、今日からお前はここで暮らすんだ」
大きな屋敷の門を前に、着流しに鳶コートを纏った大柄な男が言った。
男の手には小ぶりの信玄袋と、もう一方には年端も行かない少年の手が握られていた。
少年は男の言葉に目を輝かせた。
「俺、こんな立派なお屋敷で暮らせるの? 飯も腹一杯食えるのか?」
目の前に聳え立つ門扉と男を交互に見ながら、少年の声は弾んだ。
男は少年の背丈まで腰を曲げると、無骨な手で少年の頭を撫でた。
「そうだ。暖かい布団だってあるし、飯だって腹一杯食わして貰える」
その言葉に少年の期待は益々膨らんで、少年は急かすように男の手を引いた。
男は門番と話を付けると、少年の手を引き大きな門を潜った。
石敷の庭を通り抜けると、西洋風の建物が見えて来る。
男はその少し手前で立ち止まると、再び少年の背丈まで腰を折った。
「お前はここで待ってろ」
少年に言い付け、男は躊躇することなく扉を開け、その奥へと歩を進めた。
待ってろと言われたものの、初めて目にする西洋風の建物に、少年の好奇心は掻き立てられ、辺りを硝子玉のような目でキョロキョロと見回すと、落ち着かない様子で男が出て来るのを待った。