第11章 いってらっしゃいのキス【赤司】
朝食も食べ終え、征くんを見送るために玄関へ。
赤司「じゃあ、行ってくるよ。」
彼はそう言って玄関に手を掛けたが、なぜか止まった。
『どうしたの?忘れ物?』
赤司「ちょっとね。危うく大事なものを忘れるところだったよ。」
『何を忘れたの?』
私がそう聞くと、彼は黙って右手の人差し指を自分の唇へ当てた。
私はしばらく分からなかった。
そしてふと頭に浮かんだ。
『も、もしかして、いってらっしゃいのキス…?』
赤司「それ以外に何がある?」
『な、ないけど…。』
恥ずかしながら、私は昔からいってらっしゃいのキスが夢だった。
でもいざとなると恥ずかしくて出来ない。
私がモジモジしていると…。
赤司「早くしないと仕事に遅れてしまう。」
と言ってきた。
どうやら私がキスをするまで出ていかないつもりらしい。
ならばと私は勇気を出した。
『い、いってらっしゃい。』チュッ
ほんの数秒だったけど、私にはとても長く感じた。
つむっていた目を開けて彼を見てみると、とても爽やかな笑顔でこちらを見ていた。
そして彼は私の頭に手を置きながら…。
赤司「行ってきます。出来るだけ早く帰ってくるよ。僕が帰ってくるまでいい子にして待っているんだよ。」
そう言って彼は玄関を出ていった。
彼が出ていってしばらくしても、私の心臓はうるさかった。
『新婚生活初日からこれで私の心臓持つかな…。』