第2章 こんにちは
上陸していた島のログがもうすぐ溜まるという航海士の言葉を聞いて最後に散策を始めたのがおよそ10分前のこと。最も、近くに海軍の駐屯所があるこの島の街を堂々と歩き回る気にはとてもなれず、ただ浜辺から海を眺めながら練り歩くことしか出来ないのだが。いつも見ている海も、場所が違えば景色も変わる。むしろ新鮮とも言えるそれを見ていると、足元の障害物に気づくことなくそのまま派手にすっ転んでしまった。
「いってぇ……」
こんな時、他に誰かがいて笑ってくれたなら後で話のネタにもなるのだが、生憎散策していたのは俺一人。外れかけたキャスケット帽子をかぶり直しながら転がっていたものに目を向ける。……と、なんとも不思議な光景が広がっていたわけなのだ。
それは打ち上げられた何かの骨でも海藻でもなく、生身の人間で、しかもその顔には既視感があった。俺はその人を知っていて、でも、正確に言うと知らないし、会うのは初めてと言える。
それでいて、今まで生きた中でこれほどまで今日という日を誰かに感謝したいと思ったことはないであろう。
【こんにちは、漫画の中の彼女】