第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
【雫、とめどなく】
土方さんの一言を合図に静寂に包まれた。
だけど、私の心臓は静寂とは程遠くドキドキと煩い。
この高鳴りは土方さんら美形に見つめられているからではなく、確実に何を聞かれるか、であろう。
…多分。
「記憶喪失と聞いているが、答えられる事だけで良い」
そう言った土方さんは淡々と私に質問する。
何故、あの場所に居たのか。
何故、雨でもないのにびしょ濡れで居たのか。
後は親、兄弟や住んでいる場所やら。
私は土方さんの質問に全て" いいえ"で答えた。
てか、私だって聞きたい。
何故、此処にいるのか。
何故、着物が着られるのか。
何故、文字が書けるのか。
何故、何故と切りがない。
「じゃあ、最後だ」
そう言うと私の目の前に一振りの刀が差し出された。
その刀の鞘には美しい細工が施してあった。
私には刀の名称とか良く解らないけど、鞘は朱を基準に金の繊細な縁取り、持つ所は白と銀で編まれていた。
そして大きく飾られた布は誰もが目を引く美しい藤色。
私はその美しい刀に釘付けになる。
目が離せない…。
「コイツに見覚えはあるか?」
土方さんのセリフに対してゆっくりと首を振る。
知らない。
知らない筈なのに、私はその刀を欲している。
震える。
早く、あのコに触れなくては。
早く、あのコを抱き締めてあげなくては…。
泣いてる。
私は、
此処に、いるよ…。
だけど…。
「おいっ!」
いつの間にかフリーズしていた私は土方さんに身体を揺すられて改めて尋問の途中である事に気が付いた。
はっとして前を向くと綺麗な紫色の瞳と視線が交わる。
「…っ!」
その瞳は何故だか困ったように揺れていた。
私はどうしたのだろうと瞳を見つめ返していると土方さんの手が私に伸びて優しく頬に触れた。
「…まだ尋問らしい事はしてねぇ」
だから、泣くな。
私、泣いてる…?
そう気付いたら最後だった。
「っ…」