第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
【偽、胸に秘め…。】
あの騒動のせいですっかり忘れていた。
私は着替え終わって自身を見遣る。
何故、私は着物を気付けられるのだろうか。
浴衣くらいなら夏限定だが着ていた事もあったのでそれくらいは出来る。
だが、今は着物。それも袴だ。
袴なんて大学の卒業以来着ていないし、着付けだって母にやって貰った。
だから一人で着こなせる訳がないのだ。
それと、文字。
あの後、筆談で軽く自己紹介をしたんだ。
彼女から筆と用紙を渡され、名前を書いてと言われる。
先に茶で試し書きをしていたので名前はあれでいける、筈。後は分かりませんと言うように、首を振れば良い。
私は筆を持つ。
少し震えるのは仕方がない。
だが、どう言う訳か知らないが、筆が手に馴染んでいる様な気がする。
私は筆を紙に落とし自分の名を書いた。
「これからは名前さんとお呼びしますね」
古風な書き方をするんですね。
でも、綺麗です、羨ましいです。
彼女はそう言いながら自身の名前も綴ったのだ。