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名の無い関係

第18章 問題は山積み


勢いに任せてキスをしてしまった。
二、三発殴られても仕方がないと思っていたが、彼女から返ってきたのはまるで受け入れてくれたかの様な優しい抱擁だった。
だから余計に気まずくて、その後は何も言えなくなった。
俺を抱き締めた手は優しかった。
ただ、ただ、優しかった。
それは母親が我が子を慈しむ様で、言葉や態度で拒絶されるよりも酷く突き離された気がした。
こんな事なら思い切り殴られた方がマシだったとすら思ってしまう。


『相変わらず泣くのが下手だね。』


トントンとあやす様に背中を叩かれる。
自分の辛い過去を思い出したからなのか、少しずつだが彼女に近付いていたと思っていたのが自分だけだからなのか。
涙が出たわけでは無いが、泣いていると言われても否定できない。
初めて敬礼をすると決めた日、この心臓をアゲハに捧げると誓った。けれどそれがどれだけ甘い覚悟だったかを今更思い知らされた。


「俺はもう二度と敬礼しない。」


きっとはじめから俺はアゲハに惹かれていた。
分け隔てない明るさや、どこか間が抜けてる所もだらし無い所も。
それに、エルヴィンの為に必死な姿にも惹かれていた。
いつか自分に対してもあんな風になってくれたらいいと思う事もあった。


『リヴァイ?』

「アンタの方からさせてやる。」

『ん?』


タイミングよく馬車が止まった。


「欲しいと言わせてやる。」


それは自分にも向けた言葉だった。


『お手柔らかに頼むよ。』


言葉の真意が伝わったのかどうかは分からないが、彼女はそう言うと俺が好きになったあの笑顔を浮かべてくれた。
到着を告げドアを開けられる前に起き上がり、ぶつけたのだろう後頭部をさすりながらまだ座り込んでいるアゲハに手を伸ばす。


「ほら、立て。」

『優しくないなぁ。』


初めてでは無いはずだが、彼女の手を握る事に僅かな緊張がある。自分から誰かに触れたいと思うのは久しぶりだ。


「用事を済ませたいんだろ?」

『今日中に戻りたいからね。』


訓練を休ませて連れて来てるからと申し訳なさそうに言う彼女の手を握ったまま、開けられたドアから降りる。
ここまで馬車を走らせて来た奴は、それに気が付きあからさまに視線を反らせた。今は誰に何と思われても構わない。
ずっとモヤモヤとしていたものが綺麗に無くなった気がした。
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