第11章 誰のもの
「な〜んかアレだねぇ〜。しっくりくるって言うのかね。」
エルヴィンの執務室に実験報告書を持って来ていたハンジは、何か楽しそうに話しながら外を歩く二人を見て目を細めていた。
正確にはリヴァイがなんだかんだとアゲハに説教をしているのだろうけれど。
「エルヴィン、いいの?」
「いい悪いの話ではないだろう?」
「うちの隊の子達も噂してるよ、あの二人はデキてるんじゃないか〜って。」
仲が良く見える事は悪いことではないだろ、とエルヴィンは飄々と答えた。
「まぁ、付き合い長いから私は知ってるけど。でもリヴァイは知らないんだろ?」
君達の関係、と言われてもまだ、エルヴィンは感情を表に出すことはない。
それが面白くないとハンジは更に煽るような事を口にする。
「それに間違いなくリヴァイはアゲハを女として特別に感じ始めてるよ。まぁ、私の本業は巨人調査だけどさ人間観察は趣味なんだ。だからわかるんだよね〜。」
「そうなるだろうと見越してアゲハにリヴァイを任せた、と言ったら君は幻滅するか?」
口調はいつもと変わらない優しいものだったが、書類から離れハンジに向けられたエルヴィンの目はゾッとする程にギラギラとしていた。
それは怒りではなく、とてつもなく強い好奇心のよう。
狩を直後に控えた猛獣、壁外調査に出る直前の様な目だった。
「あはは〜、参ったね。ま、策士も程々にしときなよ。」
「策士ではないよ、ただ、人類にとっての最善策をいつも考えているだけだ。」
そう言うと読み終えた報告書をハンジへと返した。
「なかなか興味深いものだったが、難しいだろう。それに、今は討伐することよりも如何に遭遇しないか、を考えるべきだと私は思っているよ。」
だよね〜、とあっけらかんと返された書類を手にハンジは執務室を出て行った。
静かに立ち上がり、窓から外の様子をエルヴィンは眺める。
訓練場に並んで立ち、親しげに話す後ろ姿。
それは自分には見せない二人の姿でもある。
リヴァイもアゲハも、極自然に感情をお互いにぶつけ合っている。
「確かに、あんなリヴァイは初めて見たな。」
ミケの方へと行ってしまうアゲハを愛おしそうにリヴァイは見つめていた。