第9章 貴族ごっこ
引っ張られるように歩かされ、感じていた以上に自分の体がフラフラになっている事を実感した。
一歩が軽い、床がまるで柔らかい綿だ。
エルヴィンの手が冷たく感じるのは自分の体温が高いからだろうか。
「お久しぶりです、ランスロット伯爵。今宵もお招き頂きましてありがとうございます。」
「やぁスミス!それに…。」
あ、ヤバい。
アゲハの体が崩れる。
糸を失ったマリオネットの様にその場に座り込み、倒れてしまった。
どこか自分の上の方が騒がしい様な気がしていたが、それもどうでもいいと思ってしまう。
きっと色々と疲れが溜まってしまって身体の方が脳より先に動いた、いや、止まってしまったのだろう。
「これは大変だ!すぐに休める部屋と医者の手配を!!」
目の前でお気に入りのアゲハが、倒れたのを見て血相を変えたランスロット伯爵は自分の執事に慌てて命令する。
「そんな滅相もありません。折角のパーティーをお邪魔してしまい申し訳ありませんでした。彼女の事はこちらで対処致します。」
エルヴィンは深々と頭を下げると、倒れたアゲハをそっと抱き上げた。
まるでおとぎ話の様な光景に、ザワザワとしていたその場はほうっと息を飲む。
気を失ってしまっている彼女は、まるで眠り姫だ。
それを優しく抱き上げたエルヴィンは、彼女を救い出す王子といったところだろうか。
二人が調査兵団の兵士だと知っているからこそ、平和呆けした彼等には更に刺激的な光景に見えるのだろう。
さしずめ巨人が二人を裂こうとする悪役。
「さぁ、帰ろう。君は頑張り過ぎたんだ…。」
エルヴィンのわざと残した彼女に向けた一言に、その場にいた貴族達は感動にも似た感情を抱いていた。