第8章 新体制
ボサボサに乱れた髪。しばらく睡眠をとっていないのだろうくっきりと浮かんだ隈。
彼女とすれ違った兵が思わず振り返って表情を歪めていく。
「…汚ぇな。」
「やぁリヴァイ、元気?」
食事を取っていた手が止まる。
ツンと鼻をつく匂いは何日も風呂に入っていないからだろうか。
「元気だったがお前のおかげで食欲が失せた。」
「そりゃまずいよ、訓練班はきちんと食事を摂らなきゃ!」
そう思うなら早く立ち去れとリヴァイの目は訴える。
だが、今のハンジにはそれを受け取る余裕は無かった。
この様子ではまた研究に没頭していたのだろう。
仮にも班長という立場にも関わらず、アイツ同様に部下に多大な迷惑をかけるダメ上官だ。
まだ残っていた食事を食べずに席を立とうとするリヴァイをハンジは慌てて呼び止めた。
「待って、待ってよ!リヴァイに頼みがあって来たんだから。」
「頼み?」
「新しい対巨人武器を考案したんだ。試作品が近々届くんだけど…。」
それでこの有様なのか、キラキラした目でその武器について早口で興奮気味に説明するハンジを哀れんだように見ていた。
「本当はアゲハに実験に付き合って貰いたかったんだけど無理だからさ。」
久しぶりに聞いたような気がした。
直接の上官ではなくなってから、思えば顔を合わせる機会も無くなっていた。
そしてここ数日は彼女の姿も見ていない。
それによくよく考えてみると、今の兵団内のどこに彼女がいるのかを知らない事に気がついた。
「無理だと?」
「仕方ないじゃん。アゲハは今、ここには居ないしさ〜。戻って来てもしばらくは忙しいって。」
一体どんな任務についているのだろうか。
「アイツが忙しいのか?」
「エルヴィンと一緒に内地に行ってるからね。」
きっと貴族連中になかなか返して貰えないんだよ、とハンジ言った。
なぜ、なんの必要があってそんなところへ行っているのかもわからない。
「届いたらまた連絡するし、ミケには私から話しておくから。実験、よろしくね!」
ハンジはそう言うとリヴァイの残したパンを手に食堂を出て行ってしまった。
今は自分は彼女の部下ではない。
そもそも、一兵士と元分隊長がそう気軽に話をしたりする方が可笑しいのかもしれない。