第1章 上官
初めての壁外調査、初めての巨人との戦闘。
親しい人間達の呆気無く無残な死、そして新たな決意…。
「今のお前には心の静養も必要だろう。だが、調査兵団には呑気に静養を取る時間はない。すまないが君の新しい上官に今後の事は一任した。」
「上官?」
壁外調査から戻った翌日。
エルヴィンの執務室に呼ばれたリヴァイはいつもの不機嫌な表情を更に歪めた。
「本当はこんな形ではなく、君達を彼女の下につかせたかったんだが…。」
今度の上官は女なのか、とリヴァイは舌打ちをした。
今回の壁外調査から彼女は外れていたものでね、と何かを隠す様な含みのある言い方だった。
兵団内の事など対して興味のないリヴァイにしたら、それはどうでもいいような話だ。
問題なのは今度の上官は女という事だ。
「エルヴィン、言っておくが俺は俺のやり方で戦わせてもらう。」
「あぁ、構わない。だが、兵団としての最低限の規律は守って貰う。お前だけ特別というわけにはいかない。」
集団にはある程度の上下関係が必要な事はわかっている。
だが、こうしろ、あれをやれ、と逐一命令されるのは尺に合わない。
きちんと立体起動の使用法や戦い方のノウハウを教わってここにいるわけではない自分が、他の連中から浮いてしまっていることもわかっていた。
「了解だ。新しい上官がいい子にしてりゃ大人しくしといてやる。」
エルヴィンはクスっと笑う。
リヴァイの言う「いい子」というのがツボに入ったらしい。
「そうか、なら大丈夫だろう。挨拶かねて彼女を呼んできてくれ。今頃なら彼女はおそらく…。」
エルヴィンはそう言うと窓の外へ、向こうに小さく見える壁を指差した。
「最外壁、シガンシナ区辺りの壁上にいるだろう。」
なんでそんな所に?とリヴァイは怪訝な顔をした。