第4章 距離II
夕食後、消灯時間までの僅かな時間。
立体起動を使用する為の準備訓練場にアゲハとリヴァイの姿があった。
「なんだ、これは。」
『本来ならば訓練兵に使うんだ。バランスを身体に覚え込ませる為のものだよ。』
「言ったはずだ、俺は俺のやり方でやると。」
『わ〜かってるって!』
もう、すぐそうやって怒るんだから!と笑いながら言った彼女は、自分がそれに手を伸ばした。
説明することもなく、カチカチと訓練装置のワイヤーやベルトを自分のそれに繋ぐとトンっと軽く地面を蹴る。
ベルトの力でフワッと浮き上がった彼女の身体は、模範的な姿勢で空中に留まる。
「俺はやらねぇぞ。」
『いいよ、別に。』
ならなんでわざわざ自分をここに連れてきたのか、とリヴァイは彼女を睨む。
『教科書通りの空中姿勢は確かにバランスも取れてるし、体への負荷も最小限なんだろうけどね。これ、空中停止しているなら、なんだよね。』
独り言のように話し出したアゲハはそう言うとわざと自分からバランスを崩した。
ガシャガシャと訓練機が軋む。
『移動速度の向上、ガスの消費量の節約。』
「俺にもそれをやれと?」
まるで空中にうつ伏せに倒れるよう。
腰の位置に繋がれたワイヤーだけを軸にその姿勢をとるにはかなりの筋力が必要なはず。
『これは私のやり方。アンカーは目的よりも、現状の自分の位置よりも下には絶対に撃たない。』
必要なのはほんの少しの覚悟だと彼女は言った。
『っ!あーもう無理!きっつー!』
姿勢を戻した彼女は降ろしてー!とリヴァイを呼んだ。
一人では降りられないのが訓練機の難点だと彼女は愚痴る。
「………。」
『自分の身体の落下する力でガスの消費量を減らす。移動時は極力空気抵抗のない態勢をとる。言葉にすると簡単だけど実戦ではここに巨人と死への恐怖が追加されるの。』
だから、誰にでも出来る事じゃない。
だからリヴァイにもやれとは言わない。
そうアゲハは言った。
「アゲハ、俺はまだお前を認めてねぇ。」
『知ってる。いいよ、強要はしないから。でも、こんなやり方もあるって程度には覚えておいて。』
はい、今夜の特別訓練はここまで!と彼女は笑った。
久しぶりに乗ったから身体痛いわ〜と愚痴りながら、アゲハは兵舎へと戻って行った。