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名の無い関係

第3章 距離


どうしたものだろうか。
これが執務室ならば躊躇なく開けて入室するが、仮にもここは上官で一応女の部屋。
何度かノックしたが応答がない。
夕食時に食堂には姿がなかった事は確認している。
だから部屋にいるものだと思ってそのままの足で来たはいいが、ピクリともしないドアの前にもう五分は立っている。


「おい、アゲハ!いねぇーのか?!」


力一杯ドアを叩きこれで応答がなかったら帰ろうと思っていた。


『いいよー、入って待ってて。』

「いるならさっさと出てっ…!!」


妙な湿気に石鹸のいい匂い。
どうしてなかなかアゲハの返事がなったのかすぐにわかった。
少しだけ開いたドアの置くからまだ湯気がこちらに溢れ出ていた。


『ゴメンねー、こんなすぐに来てくれるとは思ってなかったからさ。』

「分隊長様になると風呂も自由か。」


可笑しい。
いつもと同じ様に言えただろうか。
妙にザワザワするのは、同室の連中のあんな話を聞いたばかりだろう。
濡れたままの髪をタオルでこすりながら顔を出した彼女は、見慣れた兵士のそれではなくどことなく女らしさがある私服。
こうして見ると本当にまだ幼い。


『拗ねるなって。備え付けはシャワーだけだよ。それにリヴァイも使っていいよ。』

「は?」

『前々から思ってたんだよ。夜中に井戸で水浴びしたら風邪ひくよ?』


君の潔癖症は知ってたつもりだけど、と続けた彼女はベッドにドサっと腰を降ろした。
そして君はそっち、とカウチを指差す。


「わざわざ呼んだのはこの話のためか?」

『まさか!これはついで。本題はこれ。』


彼女はそう言うと次の壁外調査についての資料を投げてよこした。
まだ一般兵が知ってはいけないだろう文書をこうも簡単に渡してくるだなんて、信用されているのだろうがなんだか複雑な気分だ。


『次の調査はいつもよりも危険度が増す。今のリヴァイの戦闘方法でははっきり言って死ぬ。』

「な?!」

『補給がね、出来ないのよ。リヴァイはブレードの消費もガスの消費もはやいから。』


決して弱いって意味じゃないよと彼女は慌ててフォローをする。
確かにこの文書通りの作戦を実行するならば、今のやり方では彼女の言う通りだ。ブレードもガスも底をつく。
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