第7章 長い1日の終わり
私は途中からほぼ意識する事が出来なかったドラマを巻き戻しつつ、そろそろ本当に大和くんを寝かせて自分も寝ないとなと思い出す。
「それじゃあそろそろ」
『だな』
「おやすみなさい、大和くん」
『おやすみー……』
お互いに挨拶を済ませ、スマホから耳を離す。と、同時に。
『御崎』
「!?」
甘い、甘い声。まるで温かなフォンダンショコラがとろける様に、甘い声が耳をくすぐった。
今日聞いた中でも、ドラマの中でも、そのどれでもない声で名前を呼ばれる。
この上ない恥ずかしさと驚きのあまりに3秒は固まってしまったが、ハッと我に返り文句を言ってやろう、そう思い焦りながら耳を当て直すも聞こえるのは無音、強いていえば目の前のドラマの音のみ。
ディスプレイをなんとも言えない気持ちで見つめても、浮かんでいるのは〝通話46分32秒〟の文字のみ。結局最後の最後にしてやられたと言う気分が私の感情に爪を立てる。
スリープモードになった真っ黒なスマホの画面が写すのは、初めて聞く声に耳まで真っ赤にしている自分の顔。
そんな自分の顔を見るのも、初めてかもしれない。
「演技派のバカヤロー……」
私をからかう為なら全力を出すんだろう、最初のいいおもちゃを見付けたと言う風に感じ取った彼のオーラは、間違いじゃなかったんだろうな。
悔しい、ひたすらに悔しい。何が一番悔しいかって、相手は遊んでるだけなのに、甘い声で名前を呼ばれてドキドキしている自分の胸が一番悔しい。
あれは演技、私はおもちゃ。それだけの話、胸が高鳴る必要も顔を赤らめる必要も、何も無い。
……今日はもうドラマは見れなさそうだ。
停止ボタンを押すとテレビのチャンネルを変え、明日の天気予報を駄々流しにするとベッドに仰向けに転がる。
明日の降水確率も普段と違って耳に入らず、ただひたすらにボーッと天井を眺めた。
意識し過ぎてる、そう思われても嫌だからプンプン怒っている王様プリンのスタンプを送ると、ケラケラ笑っているうさぎのスタンプが返ってきた。
実際笑っているのだろう、人の感情で遊ぶなんて……。
それでも、どこかで楽しいと思っている自分がこれまた不思議でならない。
あぁ、そうだ。きっとちゃんとした友達と呼べる相手がいなかったから、親しい関係がうれしいんだろう。
ようやく納得して、私は眠りへと落ちた。