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家事のお姉さんと歌のお兄さんと

第2章 悪意と決別




季節は秋。穏やかな日差しにそよぐ風は漸くちょうど良さを感じるようになった9月中頃のこと。

麗らかではない部長の呼び出しで私は会議室にいた。


「という訳で瑠璃華君、君は明日から来なくていいよ。 今日までの給料と手当はきちんと支払っておくから」


いや、待って。1通り説明されても突然過ぎて意味がわからない。大嫌いな上司から告げられた言葉に思い当たる節もなく愕然とする。
昨日まであなたのセクハラとイビリに耐えて、それでもきちんと業績を残してましたよね?
それを、え、これはもしかして?


「なすり付けるつもりですか?」

「いやぁ、なすり付けるだなんて人聞きの悪い。 そもそも君が用意した書類からミスが発覚したんだ、向こうさんの社長がカンカンでねぇ……申し訳ないけど責任を取って辞めてもらうことになったんだよ」


決定事項か、どこまでもいけ好かない男。そんな陰湿な性格だから女房に逃げられるのよ。
いっそそう言って平手打ちしたい衝動に駆られるのをぐっと堪えて、どの書類だったか、思い当たる文面を記憶からまさぐる。

しかしいくら探しても企画から思い当たるのは1箇所のみ。


「あの企画書Aの3項目ですよね?」

「うむ、記憶力も物分りも良いならもっと器量良く仕事をしていればよかったんだがなぁ」


部長は言葉の端でチクチクと刺していくが、今はそんな事も気にならないほど頭に血が上っている。


「でもあの3項目は私何度も部長に確認取りましたよね?修正案を何度も提出しましたが、部長がこだわりがあると言っていた事を高橋さんからも伺っています! 」

「はて、そんな修正案私は知らないが??」


脂ぎった禿頭を一撫でし、その手を口元に持っていくとあたかも「うーんそんなのあったっけ」と言わんばかりにしらを切る姿勢。

周りに頼ろうにも次の標的が自分になる事を恐れ、誰も加担する人はいないだろうなぁ。そもそもそんな優しい人がいたら私へのイビリやセクハラはとっくの昔に終わりを迎えていたはず。

あぁ、なんでこうなっちゃったんだろ。


ニヤニヤし続ける上司を残したまま、上の空で呟いた退室の挨拶は恐らく誰の耳にも入らないであろうほど小さくて。まるで砂漠にぽつんと1人で立っているんじゃないかと言うほどの心細さと虚無感を覚える。

こうして私は高校以来の就活を突き付けられた。
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