第4章 挨拶回りと初仕事
「はい、お待たせしました!」
トレイに乗せて自分の分(まかない許可有)と二階堂さんの分をテーブルへと運んだ。
「ん?この短時間でこれだけ作ったの?すごいな」
「ふふ、キャリアウーマンをなめないで下さい」
腕が違います、と力こぶ作り、私も椅子に座る。
「いただきまーす」
「はいどうぞ召し上がれ、二階堂さん」
しかし、煮物に伸びた箸をピタリと止めるとこちらを見る。
やはり嫌いなものでもあったのだろうか。不安になって私も箸を止めると恐る恐る聞いてみる。
「何か苦手なものでも……?」
「あー、いや、なんだ、最近歳の近いやつに二階堂さんってあんま呼ばれてなくて違和感あるし、俺も名前で呼んでくんない?と言うかお兄さんにも別にタメ口でいいんだぞ?」
なんだそんな事か。しかし、難関その1(その2は一織くん)はきっとどこかで私を引っ掛けようとしているに違いない。警戒心からか、私の敬語は取れなさそうだし……かと言って全く要望に応じないのもまた何か探られる可能性があるのは否定出来ない。
「なるほど……ですが他の方はみんな年下でしたので……」
「タメだってあんま変わんないでしょーよ」
「わかりました、わかりましたから」
急に真顔を作り出すもんだから、本当に何考えてるかわかんない……天才役者って怖いな。そう思いながら妥協点を見つけ、私は眉間を抑えた。
「じゃあさっきのやり直しねー」
「あー……」
またコロッと表情を変える二階堂さん。なんて楽しそうなんだ、私はこんなにも苦労しているというのに。
まぁいいや、お腹も空いてるしさっさと食べてお掃除しなければ。
take3や4を出されても面倒だ、出来る限りいい笑顔で。まぁ、美味しく食べてもらえればな、と言う本心も少しはあったし。
「……召し上がれ、大和さん」
「っ!?」
一瞬、ほんの一瞬だけ素の驚きを見せるとまたいつもの調子に戻っていただきますと食べ始めた。口には合ったようで、うまいなこれ、と言いながら箸を進めている。
「てっきりほかの奴らみたいに名前に〝くん〟付けしてくれるのかと思ったわー」
「大和さんは私の中であまり〝くん〟と言う方ではない感じがして……とてもしっかりしていらっしゃるので」
ふーんとまた素っ気ない返事が返ってきたものの、箸が止まることはなかった。