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刀剣男士で百物語

第1章  小夜左文字の話 【一振り目】


来るなら来いと僕は隣の部屋を睨みました。
僕の憎しみの怨嗟に勝てる怨霊など居ませんから…。
けれど僕の意に反して、その声はぴたりと止まりました。
さっきまで騒がしかった部屋が嘘のように静まり返っていました。
眠っている刀の寝息が微かに聞こえる以外、他には何も。


消えたのかなと、安堵した時でした。
「お小夜」
聞き覚えのある声に、思わず振り向きました。
部屋の―――障子の前に宗三兄様が立っていました。
いつもの声なのに、気味が悪い。
僕の中の警戒心が一心に宗三兄様に向けられました。

そこに立っているのは兄様ではない。
あいつらだ。

隣の声の奴らが宗三兄様の真似をして立っている。
そう思ったとき、警戒心や恐怖心よりも嫌悪感が強くなりました。

殺してしまおう。
こいつを今すぐ殺してしまおう。
兄様を汚すこいつを。

そう思い、鞘から短刀を抜いた僕を彼が止めたんです。
今剣さんです。
手入れをしたと言っても、重傷の彼が必死に。

「そちらにいってはいけません」
「あれはことわりをはずれたもの」
「あなたはちかづいてはいけません」

必死に縋る様に僕の袈裟を握る今剣さんを見てからもう一度障子の向こうの兄様を見ました。
兄様と同じ背格好で同じ声。

「お小夜、居るのでしょう?」

僕にはその影が本物の兄様にしか見えませんでした。
けれども僕の袈裟を握る今剣さんの手を振りほどいてまで、確認するのが怖かったのです。
自分がこんなにも臆病者だとは思いませんでした。

でも正解だったんです。

―――バンッツ

大きな音を立てて、障子が開きました。
ひとりでに。
けれどその先に誰も居ませんでした。
それなのに。

「お小夜」

兄様の声は聞こえてきました。
誰も居ない空間から兄様の声が聞こえるさまは、なんとも気味が悪く恐ろしいものでした。
人の身体を得て初めて感じた恐怖でした。

…そのあとはもう、何も起きませんでした。
兄様の声は聞こえませんでした。

開けられた障子は、朝にあなたが部屋に来たときそのままでしたでしょう?
そういうことがあったんです。
…気味悪い?
僕もそう思います。

あれからあなたは僕を出陣させる機会も増え、内番を任されることは減りましたが…。
僕は正直、あの倉庫が怖いです。


またあの声が聞こえるんじゃないかと思うと。







おわり
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