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刀剣男士で百物語

第5章  加州清光の話  【五振り目】


でも。
多分、それがダメだったんだと思う。

お地蔵様を直したら風が吹いたんだ。
塊みたいな風が。
俺の体の中を通り抜けていったんだ。

なにか大切なものが無くなった様な感覚がして、振り返ったらさ。

俺が一目散に走って、来た道を帰っていたんだ。

自分と同じ背丈で同じ服を着て、同じ走り方で。
来た道を走っていったんだ。

俺も急いで帰ろうとしたんだ。
いや。
走っていった俺を捕まえようとしたんだ。


走っていったのは『俺』だったから。


自分の中にある、自分たるもの…。
なんて言うかな。
俺は『俺』ですって確信できる…人間でいう心。

それが走って行っちゃったんだ。
追いかけなきゃ。
『俺』を捕まえないとって。

でも足が全然動かなくて。
頭では分かっていても、身体が動かないんだ。

早くしないと俺を無くしちゃうって。
早くしないと、早くしないとって。

でも焦っているはずなのに、全然不安にならなかった。
怖いとか、嫌だとか。
そういう気持ちがゴッソリ無くなってたんだ。

その時にはもう『俺』はいなくなってた。
長屋の間をすり抜けて何処かに走っていったんだ。

残された側の俺を置いて。
内側の『俺』は。

死んじゃった。


そうわかった時、足が自然と動いたよ。
帰ろう。
もう、帰らないとって。

内側の『俺』が居なくなって、側だけの俺になって気づいたんだ。
この中がとても軽い。
不安も恐怖も嫌な気持ちもない。
何も感じない事がこんなにもどうでもいい事なんだって。

そしたらさ。
仲間の呼ぶ声が聞こえて、飛び起きたんだ。

夢?

夢だったのかな。
みんな心配して俺を囲んでた。
たまたま通りかかった人が俺を見つけたみたいだけど。
なんか路地の間で倒れてたみたいで。

周りを見たいら、あの祠に行く途中に通った道だったよ。
俺は途中で倒れたのか、寝たのか分からない。

でも俺気づいたんだ。
さっきの事がすごく怖いって。
そしたら震えだしちゃって。

俺の様子が変だって言って自由行動はすぐに終わり。
俺は担がれるように本丸に帰城。


それ以来遠征で自由時間が出来てもうろつかないようにしてる。
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