第1章 ドライブデート
出発してどれくらい経っただろう。だんだんと外の景色が変わっていく。ビルが立ち並ぶ街を通り過ぎ、山道を抜けたところだ。すると、もうじき右手に海が見えてくるはずだ。あの日のあの時もこんな景色だっただろうか。少し変わっただろうか。
景色が少しずつ自分達を追い抜かしていくにつれ、あの日に戻っていくような、不思議な感覚をは感じていた。
「なんだよ。面白いってさー」
不服だぞと言わんばかりに、雄一が子供っぽくわざと口を尖らす。
「公園を歩いてる間中、めちゃくちゃ、喋ってたよね。今じゃ考えられないくらいさ。」
今はどちらかというと、私の方がよっぽどおしゃべり。それに、どちらからともなく、腕を絡み合わせて歩いたりもする。あの時の彼は、最初から最後まで手を繋げなかったっけ。
もう、変に意識したり、妙に緊張したり、そんなことは、つゆと無くなってしまった。
「あんときは、恥ずかしかったの、俺だって」
耳まで真っ赤な雄一とは対照的な、冷静なカーナビの音声が重なる。次の交差点を左折したら、あとはずっと道なりらしい。
「だって。今よりずっと大人しかったくせに」
お返しとばかり、雄一が反論する。
「それは、いっちゃダメじゃん。」
指摘されたことが、その通りすぎては思わず笑ってしまった。あのときは、可愛い子でいなくちゃという気持ちと緊張とで、今日みたいな大あくびなんてもってのほかだったことを思い出す。
「実はさ」
「ん?」
「俺は今でも、緊張してるよ」
好きな子とデートなんだからさ。
とつけ足した雄一は、緊張とはかけ離れたような、不敵な笑みを浮かべていた。その瞳に、あの時のときめきを思い出す。急に、初めてのデートの瞬間に戻ったような、恥ずかしさがこみ上げ顔が熱く火照る。すると横から、雄一の腕が伸びてきて「可愛いなー」と笑いながら頭をぐしゃぐしゃにされた。
「もう。やめてよ」
私には、説得力なんて、かけらもない。
ー目的地周辺です。運転お疲れ様でしたー
さらりとした、爽やかな声がやけに響いて、目的地周辺を告げた。
おわり