第1章 ホットチョコレート
都心から少し離れた雑居ビルの7階。
ちょうど立ち飲みバーにあるような背の高いテーブルと自動販売機だけの小さな休憩室。白い壁に小さな時計、窓際に葉の広い観葉植物。
はそのテーブルに寄りかかり、眼下に広がる騒がしい街並みを眺めていた。いつもと変わらないはずの景色も、どことなく浮き足だっているように見えた。夕闇が迫る空は、刻一刻とその色を変え、それに呼応しながら、オレンジや白の灯りがモザイクのように浮かんでいく。
の手のなかには、少し暖かさを失ったホットチョコレート。
つかの間の休息。
先程の会議では、営業成績の良し悪しや他社動向、それに短期目標の達成度などが取り上げられた。チームとしての仕事、引いては自分自身を変えていかなければ、などと思う。
頭が痛い。身体も精神も疲れていた。
そんな会議を終えてほっと一息つくために、が選んだのは、いつものカフェオレではなく。
(今日は、バレンタインデーだもんね。)
そんな、気持ちで自動販売機の緑のボタンを押したのだった。
半分ほどに減ったホットチョコレートを眺める。冷蔵庫の中でその時を待つ、雄一のために作ったチョコレートを思い出し、ふっと笑みがこぼれた。