第7章 天使の憂鬱(石田三成/微甘)
城を出て、城下からぐるりとまわり、やって来たのは城の裏手にある小高い丘の上。
一画には、瑞々しい紫色の桔梗が群れるように咲いています。
「わぁ、こんな綺麗な所があったんだね」
先程までの緊張が解けたのでしょうか、花や景色を嬉しそうに見ている迦羅様はやはり可愛らしい。
「先程は、何の配慮もなしに、申し訳ありませんでした」
冷静になり、考えもせずに皆の前であんなことを言ってしまったことに、少し後悔を覚えました。
「いいの、謝らないで。確かに驚いたけど…」
「ですが…あれは嘘でも冗談でもありません」
桔梗の花を背にして佇んでいる迦羅様にそっと歩み寄ると、困ったような、どこか熱を帯びたような綺麗な瞳を見つめました。
自分でも無意識のうちに、言葉が溢れてくるのです。
「私はいつか、迦羅様も私を好いて下さればいいのにと、そう思っています」
今すぐにとは言いません。
迷惑だと思われるのなら…それも仕方がないでしょう。
ですが私はこんなにも、迦羅様が愛しいのです。
すると、温かい手が、そっと私の指を握りました。
恥ずかしそうに顔を上げた迦羅様の頬は花のように色付き、この世の何よりも美しいー。
「三成くんが言ってくれたこと、すごく嬉しかった」
ひと息いれて、言葉が紡がれる。
「いつかなんて言わないで…私はもう、三成くんが好きだから」
そう言う迦羅様は、私が今まで見たこともないくらいの愛らしい真っ直ぐな笑顔を向けて下さいました。
私の胸には何とも形容しがたい幸せな感情が沸き起こり、自然と目の前の愛しい人に腕を回していたのです。
「言っておきますが、私はとても不器用ですからね」
「ふふ、それは知ってる。でも、書物の次でもいいから、もっと好きになってほしい」
少し冗談めかして言う迦羅様が可愛らしくて、この人に恋をして良かったと、心底思いました。
書物が教えてくれなかった恋という素晴らしいもの。
気付かせてくれた迦羅様は、きっとこれから私にとって、どんなに優れた書物よりも大切なものになるでしょう。
「迦羅様」
「なぁに?」
顔を上げた迦羅様の額に、優しく口付けをー。
恋を知ったばかりの私には、今はこれが精一杯なのです。
完