第10章 綺麗な白色
「お兄様なら…私の中ですわ」
さっきまでの表情とはうって変わり、快楽に溺れるような顔をして血が滲んだ修道服の腹の辺りをゆっくりと撫でる。
私はぞくっと震えた。正気か。
そのさきは言わなくとも分かった。私は眉根を寄せて、セバスチャンは目を細めてマーガレットを見、私の腰に手を回した。
「私の中に入ってしまえばもう私だけのものですもの…」
自分は誰かのものだという特別感とだけという唯一感をマーガレットは求めていた。
そしてそれをカニバリズムという形で手に入れた。
「馬鹿ね」
「あら、あなたには言われたくありませんわ」
「なに?」
一層シワを深くして私は床に落ちた銃を拾い上げてマーガレットに向けた。
身1つのマーガレットだが、なにも怖がる様子はない。
両腕を広げると染み込んだ赤が垂れる。
「セバスチャンさんと契約関係にあるみたいですが、あなたは一体誰だけの存在なのですか?」
私の中で何かが揺れる。
「嗚呼、おかしい。セバスチャンさんはあなただけのものですが、ではあなたは誰のための、誰だけのものなのですか?」
ニタァと歪んだピンクの唇が目の前で回る。ずっと離れない声に耳を塞ぎたくなる。
「あら、答えられないのですか?」
マーガレットがわらう。私は耳を塞いだまま動けずに必死にその場に立とうとする。
「1人なのですね、可哀想に」
「うるさい!」
ドン!と破裂する音を立てて銃から弾が発射される。それは見事にマーガレットの肩に命中し、マーガレットは崩れる。
私は打つ手を止めずに何度も何度も弾が切れるまでマーガレットに打ち込んだ。
弾が切れたころにはもうマーガレットは動かぬ人形となり、床は鮮血の赤で満たされてひどく鉄の匂いがした。
「お嬢様…」