第21章 珈琲とイチゴジャム
「言っとくけど、甘い物が無いと飲めないって訳じゃないからね。」
納得されたのが悔しくて言うと、薬研は苦笑いする。
薬研「そいつはいいが口にジャムついてるぜ。」
「えっ、やだドコ?」
薬研「まったく、しょうがねぇなぁ。」
薬研はそう言って立ち上がると、七葉に近付き口ついたイチゴジャムをそのままチュッと舐めとる。
薬研「甘いな。」
「、、、、な。」
目を見開き呆然としている七葉をよそに、薬研は席に戻ると目玉焼きを切り分けて口に入れる。
加州といい薬研といい刀剣男子は皆、外国の方のようにスキンシップが過剰でキスは挨拶!みたいなものなのか思い出して見ると、やたらと口づけられている気がする。
これは気にしたら負けなの?などと考え、いつまでも食事に手をつけずにいると見かねた薬研が声をかけた。
薬研「大将、食わねぇのか?」
「食べるけど。」
さっきの今でそう直ぐ気持ちを切り替えることは出来ない。
しかし薬研は、そんなこと全く気づかないのか続けて聞いてくる。
薬研「けど、なんだ?」
七葉は、もういっそ一思いに聞いてしまおうとずっと疑問だった事を口にした。
「その、どうしてすぐにキスするのかなって。」
すると薬研は何を今更、とでも言いたげに答えた。
薬研「そんなの、大将が好きだからに決まっているだろう?」
「え?」
予想外の言葉に七葉が動揺していると、薬研が続ける。
薬研「おい、まさか大将は俺っちが誰彼構わず口づけをする節操なしとでも思ってたのか?」
「いや、そんなことは思って無いけど。その、好きだなんてはじめて聞いたから。」
薬研「普通言わなくてもわかるだろ?雰囲気で。」
「わからないよ。」
そんなことがわかるほどの恋愛経験も無いし、そもそも私はもう誰も好きにならないと決めているのだ。
愛だの恋だのに気づくはずがない。
うつ向いたままの七葉に、薬研は真剣に話しかける。
薬研「大将は俺っちの事が嫌いか?」
「、、嫌いじゃない。」
薬研「なら、今はそれでいいさ。」
薬研はそう言うと、マグカップの珈琲を飲み干し立ち上がる。
薬研「ごちそうさん。食器冷やしてくるな。」
七葉は立ち去る薬研の後ろ姿に見つめ小さな声で呟いた。
「でも、私は誰かを愛すことなんてできないよ。」