第20章 心音
薬研「いや、俺っちはまだ眠って無かったから気にすんな。それよりどうかしたか?」
心配そうに言われて、七葉は少し困ったように答える。
「大丈夫だよ、ちょっと眠れなかっただけ。」
目を閉じると浮かんでしまう悪いことが消えなくて。
現実にいるときなら、一時的に考える事を止めて気を紛らわす方法はある。
しかしこの世界では、ただただ沈んでいく気持ちを止める方法が見つからなくて、2人の寝息に気づくまで落ちていて眠れなかったのだ。
嘘はついていない。
薬研「本当に?」
「え?」
しかし、これで終わると思っていた話を薬研に確認され、七葉は思わず聞き返してしまった。
薬研「加州の旦那が言ってたからな。大将は嘘はつけないけど、本当に言いたいことは隠す癖があるって。」
薬研の言葉に、思い当たる節がいっぱい有りすぎて七葉は口ごもる。
薬研「自覚はあるみてぇだな。なぁ大将、本当になんともないなら、もう一度俺っちの目を見て答えてくれ。どうかしたか?」
その言葉に七葉は薬研の瞳を見つめ、何か言おうとしたが紫色の綺麗な瞳に、見透かされているような気がして何も言えなくなった。
「、、、っ、、」
薬研「やっぱりか。」
薬研は七葉の体に腕を回して引き寄せると、そのまますっぽりと自分の胸に抱き締める。
薬研「大将、自分の気持ちを表に出すことは悪いことなんかじゃないぜ。」
薬研の言葉に、七葉はうつむく。
「無理、だよ。」
それじゃ、私は生きられない。
そんなに弱くちゃ、生きてなんて来れなかった。
つたった涙を隠すように、薬研の胸に顔をうずめると耳にはトクトクと、心地の良い心音が響いていた。
これなら、眠れそう。
七葉は無意識の内に薬研の背中に腕を伸ばす。
しかし、すぐに今の自分の状況に気付いて固まる。
体を離そうとすると、また薬研に強く抱きすくめられてしまった。
薬研「いいから。」
薬研の言葉に思考が停止する。
いつからこんなに弱くなってしまったんだろう。
甘えていい場所なんてあっちゃいけないに。
七葉は薬研に腕を回すと震えた声で呟いた。
「ごめんね、赦して。」
その言葉はいったい誰に向けられたのか、薬研は腕の中で小さく震える七葉が眠るまで抱き締めた腕を離さなかった。