第24章 麦と真珠(政宗)
うだるような夏の暑さもいつのまにか過ぎ去って
季節は秋へと差し掛かる。
政宗の誕生日を盛大に祝った安土城は
すっかり平常を取り戻していた。
「ふふ…」
縫い物の手を止めて愛は思い出し笑いを漏らす。
部下の人たちが作った盛大なお料理を政宗はとても嬉しそうに食べていた。
それだけのことがとても幸せで、それでいて大切な宝物。
『愛様?また政宗様を思い出していらっしゃったのですか?』
クスクスと小さく笑いながら、針子仲間の佐江が声をかける。
「えっ?…あ…」
自分の顔が緩んでいた事に気づかされハッとする。
ここ数日、何度も繰り返された光景だ。
「す、すみません…つい…えへへ…」
照れ笑いを浮かべて再び手を動かしはじめる。
『陽気もすっかり秋色ですね。過ごしやすくなったのはいいけれど…』
小夏は心配そうに愛の手元の着物に目を移した。
政宗の誕生日の終わり。
それは、同時にこれから政宗が遠征へ…長期の戦へ出かける事を示していた。
「小夏ちゃんも心配よね?日吉くんも今回は一緒だものね」
小夏と日吉が恋仲になってから、初めての戦になる。
今、針子部屋で縫われている着物は、この遠征に出かける者たちの物だった。
『い、いえ…すみません。私は父のこともいつも見送っておりましたので…』
後ろ向きな言葉を発してしまった事を悔やみながら
小夏は申し訳なさそうにそう言った。
「家族も大切だけれど、それでもお父様と日吉くんでは気持ちも違うでしょ?
無理しなくていいんだよ。心配な気持ちになって当たり前だもの。
でも、大丈夫。なんせ総大将が政宗なんだから!」
何度見送っても不安な気持ちは自分も同じ。
帰ってきて、元気な顔を見るまでは押しつぶされそうになるものだ。
けれど、政宗を信じていることにも嘘はない。
愛は小夏を励ますように満面の笑みで言った。
『はい…!そうですよね!
政宗様がついているのですから百人力ですね!」
シャっ…
その時勢いよく襖が開き、よく通る声が響く。
「百人力なんて貧乏くせぇこと言うな。
俺がいたら万人力に決まってるだろ?」
そこには不敵な笑みを浮かべる政宗が立っていた。